なんかの夢

隙あらば自分語り

珈琲

【1章】
貴方に出会ったのはずっと昔だった。

苦いとも辛いともつかないがなんだか受け入れない後味で、僕は貴方をすぐに嫌った。

それから貴方と出会っても避ける日々。

けど、時折急に貴方を思い出してしまう。

そして、僕は貴方を一度受け入れようと思った。出会った頃から僕は随分と成長していた。

が、やはり、好ましくない。

しかし、ここで避けては昔と同じ。

僕の好きなようにアレンジしながら、僕の中に流し込む。

最初は嫌いだと思っていた不思議な後味を、僕は理性ではないどこかで求めるようになっていて、

どうにもつかない感情に襲われた。

感じたことがあるような内容なそんな...果たしてこれは...

そして出た答えは「恋」

そう、これは恋だった。

今日、僕は、珈琲に恋をした。

 

【2章】

私は、まず最初に何も入れずにそのままの君を味わう。

体に流れ込むどうにも良いとは思えない液体。

しかし、それが君の本性なのだと一気に飲み込む。

飲み込んだ後私は思うのだ。

もう一度。と。そして、もう一度口に含むと、やはりまた体が拒否する。

しょうがない。と思い、私は君を私色に染め上げる。

少しずつ砂糖とミルクを加えていく。君の色が少しずつマイルドになっていって、私に近づこうとしてくれる。

まだ君になれない私は、見よう見まねでブレンドするため、時より私とずれてしまう。

しかし、その感触でさえ愛おしい。

君はいつも違う表情を見せてくれる。

その全てを愛しながら、ピッタリと当てはまるところを見つける。

やはり君が好きなのだ。

君と出会うと、私はどうしようもない背徳感に襲われる。

そして、同時にどうしようもなく君が私だけのものになることを望む。

その闇さえも。その真っ黒な部分さえも私ならば愛することができると思うのだ。

 

 

【3章】

もう、私とあなたが出会って3回目。

砂糖とミルクの量を間違えることもなくなった。ぼんやりと沈む視界の中で、もう慣れた君を受け入れながら眠りに落ちた。

起きると時は酷く流れていて、周囲の情景は様変わりしていた。しかし変わらずそこに鎮座する君の存在に安堵する。君はすっかり冷えてしまっていたが、変わらない風貌で佇む。

寝起きの眩む視界の中で、君だけを得て君だけを受け入れる。受け入れると鮮明になっていく視界に私は少々悲しみを覚える。君と僕しかいない世界が遠のくようなそんな気がして。

行かないでとばかりに私は次から次へと君を流し込む。

そこには最初感じていた抵抗感など微塵もなかった。

しかし、行かないでと言っても有限。

愛してるよ、また今度。と別れを惜しみながら、丁寧に最後の一滴を流し込む。

きっと君は私の中にいる。だから悲しくないとわかっていながらも、君を失うのが惜しくて私は一滴、涙を流してしまったのであった。果たしてその中に君はいくら含まれていただろうか。なんだかそこに君がいる気がして、その涙をまた、私の中に入れ込んだのであった。

I

最後は一気に煽るのが好きなんだ。ずっと、ちびちびと飲んでいたから。

最後ぐらい一気に。そしたら、今まで少ししか感じられなかった流れ込んでいく感覚が、より鮮明に感じられる。ドクドクと私の中に入っていく。それがたまらなく好きだ。

 

 

【4章】

コーヒーは背徳の味がする。

平日の朝から、一番安いからという理由で、飲めもしないコーヒーを頼んでいたことを思い出す。

苦いという言葉だけでは、表しきれないような、私の苦しさに寄り添ってくれる、そんな味に魅了されてもう2年。

彼に恋して、もう2年。

久しぶりの逢瀬である。

 

 

 

【5章】
貴方を選ぶのは、いつも打算的な考えからだった。今日もそう。

初めは躊躇していたけれど、もう淀みなく選べるようになっていた。

慣れた手つきで、砂糖を半分、ミルクを全部入れてかき混ぜる。

見知った色、見知った味に変わった貴方を、何の新鮮さも感じないまま流し込む。

あの頃のドキドキも、あの頃のワクワクももうどこかに消えてしまった。

もう貴方のことを苦いとも苦しいとも愛おしいとも感じなくなっちゃった。

そう思いながらも、貴方を見るたびに貴方の思い出を語ってしまう。

でも、きっと、思い出でしかない。

最近では、私の体が彼のことを拒むようになっていた。

彼を流し込んだ後に、感じる胃の痛み。

最初は、何かの間違えかとさえ思った。そう信じたかったけれども、長くは自分を騙すことができなかった。

感情で拒んでいた貴方をやっと受け入れることができるようになったのに。

貴方に恋して、もう3年も経った。いや、まだ3年しか経っていないのに。

身体でも拒み、感情も冷めてしまった私の目に映るのは、ただの飲み物としての「コーヒー」だった。

 

 

 

 

以上、マクドナルドのコーヒーSサイズによせて。